わが国の科学技術イノベーション政策の根幹を規定した「第4期科学技術基本計画」(2011年8月19日閣議決定) には、「社会と科学技術イノベーションとの関係深化」という一節が設けられている。そこには、国民と政府、研究機関、研究者との間で認識を共有することができるよう、双方向のコミュニケーション活動を積極的に推進していくことが重要であると記載されている。
このような国民と科学研究の担い手をつなぐ双方向のコミュニケーション活動は、一般的に「科学コミュニケーション活動」と呼ばれている。そのような活動を活発化させることによって、国民の科学技術理解が増進され、研究者など科学研究の担い手の側は社会的リテラシーを増大させることができると期待されている。
では、どうすれば、そのような双方向の科学コミュニケーション活動を活発化させることができるのだろうか。特にわが国の大学及び公的研究機関の内部ではどのような努力が求められるのだろうか。これらを明らかにすることが、本書の目的である。
▼目 次
序
第1章 科学コミュニケーションの歴史と課題
科学コミュニケーションの定義／科学コミュニケーションの歴史／科学技術基本計画と科学
コミュニケーション／科学コミュニケーション研究の課題
第2章 大学及び公的研究機関における科学コミュニケーション活動の実態
質問票調査の概要／調査項目の設計／調査結果の概要
第3章 大学及び公的研究機関向け質問票調査結果の統計解析 (1) ──広報体制と研究者の協力──
科学コミュニケーション活動への研究者の協力要因／統計解析の方法／分析結果
第4章 大学及び公的研究機関向け質問票調査結果の統計解析(2)
──報道機関との連携、危機管理と研究者の協力──
報道機関との連携、被報道状況モニタリング、危機管理の重要性／統計解析の方法／分析結果
第5章 広報体制の事例分析 ──九州大学の事例をもとに──
広報体制検討の課題／調査の概要／調査結果
第6章 社会的ニーズ収集具体例の事例分析 ──北陸先端科学技術大学院大学の事例をもとに──
北陸先端科学技術大学院大学 (JAIST) の概要と課題／社会イノベーション事業の端緒／地域社
会のニーズを収集する方法としての学官連携協定／学官連携協定を基礎とする科学コミュニケー
ション活動としてのサイエンスカフェ／ 4年間の実践結果の考察──大学が社会的ニーズを収集
するために必要な組織基盤
第7章 科学コミュニケーションの応用的展開 ──研究倫理教育への応用の可能性──
研究不正と科学研究への社会的信頼の低下／日本で頻発する研究不正事件／日本政府の対応──
「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」の策定／ e-learning とテストク
イズ形式による研究倫理教育／ CITI JAPAN PROGRAM の効用と課題／科学コミュニケーション
を応用した研究倫理教育の実践／実際に大学院生の倫理感は向上したか
第8章 考察と結論、今後の展望
大学及び公的研究機関の実態調査から分かったこと／広報体制・広報担当者の望ましいあり方
広報部門の組織活動の影響／九州大学の具体事例から分かったこと──広報体制/北陸先端科学
技術大学院大学の具体事例から分かったこと──社会的ニーズの収集方法／科学コミュニケー
ションの研究倫理教育への応用の可能性／結論／今後の展望
参考文献／参考資料質問票／謝辞／事項索引／人名索引
