脳を育む―学習と教育の科学

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  • サイズ A5判/ページ数 155p/高さ 22cm
  • 商品コード 9784750320472
  • NDC分類 491.371
  • Cコード C0040

出版社内容情報

近年めざましく進展する脳科学は、教育に何をもたらすことができるのか? 生涯を通じて変化する脳のシステムの解明をふまえ、異分野を架橋・融合する環学的(trans-disciplinary)アプローチによる新しい学習と教育の科学を提起する。

日本語版序文(小泉英明)
はじめに
謝辞
序章
第1部 前提
第1章 教育状況
 1.1. なぜ、そして誰が学習するのか
 1.2. 何を、いつ学習するのか
 1.3. どのように、どこで学習するのか
第2章 認知神経科学はいかにして教育の政策と実践を啓発することができるか
 2.1. 認知神経科学でわかったことは
 2.2. 教育政策への啓発
第2部 認知神経科学と教育の出会い
第3章 三つの国際フォーラム
 3.1. 脳メカニズムと幼年期学習:ニューヨークフォーラム
 3.2. 脳メカニズムと青年期学習:グラナダフォーラム
 3.3. 脳メカニズムと老年期学習:東京フォーラム
第4章 神経科学的アプローチからみた学習
 4.1. 脳組織と神経情報処理についての原理
  4.1.1. ニューロン、精神状態、知識、学習
  4.1.2. 機能組織
 4.2. 研究方法、方法論、教育的重要性:脳機能イメージング法の影響
 4.3. 読み書き能力と計算能力
  4.3.1. 言語学習
  4.3.2. 読むスキル
  4.3.3. 数学的スキル
 4.4. 情動>         領域3:脳発達と生涯学習
  5.2.3. 三つの研究ネットワーク:構成と期待される成果
付録
 用語集
 三つのフォーラムの議題
 参考文献
 人名索引
監修者あとがき(小泉英明)

日本語版序文
 脳の本質を知って、いつかはそれを人間理解や社会問題の解決に結びつけることは、長い間、脳科学者の夢であった。最近になって、完全に非侵襲(身体を傷つけず無害)な脳機能イメージング法が急速に進展したことにより、日常的な精神活動を含めた脳の高次機能の一部を、安全かつ経時的に観察することが可能になってきた。そのために、脳科学を学習や教育に役立てるという夢が実現する兆しが見えつつある。
 私たちの思考・判断・創造などはすべて脳の働きによっている。人間の深い思索や、心の働き、そして愛や憎しみなどにかかわるのは人文学や芸術であり、さらには人間の社会を研究するのは社会科学の範疇であった。しかし、今、脳科学の仲立ちによって、自然科学と人文・社会科学、さらには芸術の世界が互いに架橋・融合される兆候が顕在化しつつある。
 この潮流から生まれた新分野の典型が「脳科学と教育」という研究領域である。OECDの「学習科学と脳研究」もまさにこのアプローチのひとつと捉えられる。
 従来、学習や教育については、教育学や教育心理学を基調とした文科系の実践分野とされてきた。しかし、学習や教育の概念を生物学的に捉え直すことによっ脳神経科学による深い理解が必要とされてくる。また、自我が芽生えたあとには社会的に生きて行くためのスキルやマナーが躾けられる。思春期には、情操が芽生えてくる。さらに、高齢になると、健やかに老いるための学習が必要となってくる。迫りくる少子高齢化社会には種々の深刻な社会問題が予想されるので、確実な対策が必要である。
 OECDの「学習科学と脳研究」に関する国際プログラムの創始には、1999年当時、OECD教育研究革新センター(CERI)の長であったヤール・ベングソン博士(Dr. Jarl Bengtsson)の功績が大きい。新たに配属されたフランスの外交官であったブルーノ・デラ・キエザ博士(Dr. Bruno dela Chiesa)とともに、手探りでこの分野が成立し得るかを調査した。そのために、人間の一生を幼年期・青年期・老年期の三つの期間に区分して、世界のトップ水準の関係研究者を集めてブレーン・ストーミングを実施した。2000年にはニューヨークにて、2001年にはグラナダと東京にて、三つの期間に分けたフォーラムが開催されたのである。これらの斬新な連続ブレーン・ストーミングの結果、新領域が確実に形成し得ることが見出された。
 そして、2002年4いクリストファー・ボール卿は、オックスフォード大学でカレッジの学長を務めた豊富な経験をもとに、この「学習科学と脳研究」という新たな領域の意義と背景(第1部)、並びに、今後の研究の可能性と重要性(第3部)を、広範かつ深い視座からまとめ上げた。アンソニー・ケリー博士は、米国国立科学財団(NSF)の研究企画責任者としての豊富な経験をもとに、世界の関連研究の現況と脳科学の最先端(第2部)をまとめ上げた。これらの素原稿に、多くの分野にわたる専門家が意見を加え、先のブルーノ・デラ・キエザ博士を中心としたOECD教育研究革新センターのスタッフが最終原稿へと完成させたものが本書である。このきわめて意義深い困難な取り組みに挑戦され、初志を貫徹された方々に深い敬意を表したい。

2005年1月
独立行政法人 科学技術振興機構・研究統括
株式会社 日立製作所・役員待遇フェロー
小泉 英明

目次

第1部 前提(教育状況;認知神経科学はいかにして教育の政策と実践を啓発することができるか)
第2部 認知神経科学と教育の出会い(三つの国際フォーラム;神経科学的アプローチからみた学習)
第3部 結論(研究展望)

著者等紹介

小泉英明[コイズミヒデアキ]
株式会社日立製作所役員待遇フェロー、独立行政法人科学技術振興機構「脳科学と教育」プログラム研究統括。中央教育審議会並びに原子力委員会専門委員、OECD「学習科学と脳研究」プログラム国際諮問委員。日本赤ちゃん学会副理事長。1971年東京大学教養学部基礎科学科卒、同年株式会社日立製作所那珂工場入社。1976年、偏光ゼーマン原子吸光法の創出により東京大学から理学博士号を授与される。1977‐1978年、カリフォルニア大学ローレンス研究所・客員物理学者(准教授)。帰国後、日立MRI(磁気共鳴画像法)開発プロジェクトのリーダーを務める。MRIの事業基盤を確立後、同社中央研究所に移籍。1992年にfMRI(機能的磁気共鳴画像法)の日本最初の論文、1995年にNIRS Imaging(近赤外分光トポグラフィ)の世界最初の論文を発表。同社基礎研究所所長や技師長、東京大学並びに北海道大学の客員教授を歴任。「脳科学と教育」「トランス・ディシプリン(TD)」「物質誌」「分析科学」などの新概念を提唱。大河内記念賞他、内外の多くの賞を受賞

小山麻紀[コヤママキ]
上智大学外国語学部、ダーラム大学心理学部卒(認知心理学専攻)。オックスフォード大学生理学部博士課程在籍。日本語での読み書き能力の発達と、学習障害のひとつであるディスレクシアを、脳科学的見地から解明することを目指している
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